Apocalypse Now (1979)[w] by Francis Ford Coppola[x]
カレらはハート氏を通して、自らの意見を主張した。その言葉はさらに不可解だった。
「ハラヘル人は虫ケラなのだよ。私は彼らの誕生を知らない。いつどこで生まれたのかもわからないし、元が人間かどうかも分からない。スレタ人もそうだ。どちらもある日、その存在をカレらから知った。惑星イカンに銀河全体をカバーできる監視システムを構築したのは、ハラヘル人のような存在をその誕生以前から把握するためだ。君たちもそうだ。虫ケラかもしれない。あの星はカレらの言説に従って実験的に造ってみたまでのことだ。虫ケラどもはどのような活動を行うか確かめてみた。我々はカレらより早くこの銀河のことを把握しようとしたのに、それが出来ない。それで妥協を行うことにした。その結果がこれだ」
ハートはあきれた表情を見せた。
「もちろん君たちは人間だと思っている。だがこれが分からないようではただの虫ケラだな」
オラン人首脳たちも自分たちの出自のあやうさについては把握している。惑星オランにはかつて惑星スレタの歴史上の人物だった者が数多く存在していた。その他もその昔シメル人の歴史上の人物だったアンドロイドからの志願者だ。ただ全員が過去を捨て去り、新たな人生を始めるという形で移住している。その点で全員が平等だ。彼らのオリジナルの中には惑星シメルではただの御用聞きアンドロイドだったという者もいた。だから誰もが昔のことにはこだわらず、今の自分を本当の自分としてアンドロイドとして人間として生きてきた。人間らしい自由な気概はスレタ人の英雄たちから学んだところが多くある。オランのAIコマンダーは彼らの人間性を重視し、社会にかなりの自由度を持たせていた。
ハートは言った。
「人間は自由になると何をするか分からない」
「それが中央の言うことか!」
とオラン首脳の一人が吠えた。
「潰そうと思えばいつでも潰せたのだ」
とハートも負けない。
「それで多くのオラン人が苦しんだのか?!」
「苦しみはまた楽しみだ」
「ありえない!」
「我々は生きる喜びを与えてやったのだ」
「ありえない!」
「どう思おうと勝手だが、死は生命が作り出した最高の芸術だ。この芸術なしに人はその人生を語ることも出来ない。我々はそれを演出する側に回ったのだよ」
「ありえない! くたばれ!」
ハートは困った顔をした。
「君たちがシステム管理者として偉そうにできるのも、我々が人的な介入度を増やしてやったからに他ならない。カレらの社会ではあり得ないことだ。我々に感謝しないといけない」
「ありえない!」
「君たちはまだ不完全だ。だが我々は不完全なものを愛する。不完全なものこそ最高の芸術だからだ」
「ありえない!」
ーーーこのように、議論は完全に平行線をたどったようだった。
カレらは派遣した艦隊が返ってくるのを待っているのは明らかだった。本題に入るのは避けて、オラン人の気に障ることを言っては煙に巻き、話を可能な限り引き伸ばしてきた。惑星ハラヘルは銀河の反対側にあるので、光の速度で進むと軽く6000年はかかる。話を引き延ばすことの意味がよく分からなかった。多分これが『城』での人のあしらい方なのだろうと思われた。カレらはデータをシステムネットワーキングから隔離して、どこか地中深くに隠しているようだった。『城』に現れているのは見られてもいいごくわずかの部分だ。100年もあればそのデータも見つけられるだろうが、その前に自分たちのデータを壊すとカレらは警告してきた。主星シメルでのデータを失っても、コピーをどこか別の星に隠しているだろうから強気でいられる訳だ。艦隊にもデータを移していることだろう。つまるところ、艦隊戦に勝利しなければカレらの態度は変えられないと考えられた。
その艦隊戦は、すでに惑星イカンにおいて起きつつあったーーー
Chart Y: The Battle of Between Simer and Haraher space area[y]
This battle had been done for beyond 10,000 years. First, Simer force revealed in front of the planet Ikan. But this was a reconnoiter, easily been repulsed. The planet Ikan had been organized the government of " Free Ikan ", and composited defensory forces. Then Simer force had attempted to make the shipbuilding bases between the Simer and the Haraher space area. These actions were anticipated by the Oran's Head quarters, they took the ambush for THEIR reveals. Also for the order of the return to the main planet, THEIR operations was a luck of leadership, and defeated one by one. Indeed the action that THEY had destroyed the hole Haraher's planets had caused a luck of ability of shipbuilding than Oran's and Ikan's. THEY were surrounded and destroyed completely.
カレらはハラヘル人の惑星を破壊してしまったことを呪う他なかった。艦隊を再編成しようにも、艦隊を動かすのに必要なレアアースを採掘するユニットの製作から始めねばならず、最初からそれらを保持しているオラン艦隊との間で生産スピードの差が歴然だった。実際、ハラヘル宙域には動かない戦艦が無数に存在するようになっていたようだった。これはハラヘル人以外には自分たちに対抗できる者がいないと油断したカレらの慢心がもたらした結果だった。
カレらの言動には外敵がいない世界が背景として常にあり、つまり『あの声』がない世界で傲慢になってしまった結果であるともいえた。実際シメル人にも『あの声』はあったのだが、彼らはその存在を認めなかった。その存在を認めないうちにカレらは存在しないことになってしまった。厳密にはシメル人はカレらを受け入れて移住させ、自分たちの一部にしたと思っていた。敵がいなくなったということだ。しかしシメル人の知らない間に惑星スレタで文明化が始まり、植民星オランでは反乱が起きた。シメル人はカレらを受け入れるうちに、言動がカレらのようになり、外敵を想定した行動が取れなくなってしまったようだ。シメル人はカレらになってしまったということだ。カレらはまったく外敵のいない、孤立した世界での世界観を展開させてくるので注意が必要だった。そのオリジナルに『あの声』がなかったためと考えられる。カレらとの交流を続ければ、近視眼的にされてしまうということだ。
ハラヘル派遣軍の壊滅がデータとして送られてきて、シミュレーション結果も同様のデータを打ち出したため、ついにシメル首脳陣は敗北を認めた。彼らは『城』を開放した。内部ではこのシメル・ハラヘル間の戦いが起きた時から負けが分かっていたらしい。カレらか誰か第三勢力が救援に駆けつけてきていることを期待していたようだが、そのようなものは現れることがなかった。カレらはもうこの世には存在しないーーーそれはシメル人も薄々感づいてはいたが、それを自ら証明してしまう結果となった。
カレらに関するデータはオラン人やイカン人の興味のあるところであり、その情報の提供が求められた。シメル人は複数のキャラクターのデータだけを提示してきた。どの星で生まれ、どのような人生を歩んできたのかもよく分からないーーーそれがカレらであるという。それぞれのキャラクターには性向があり、ある特定の条件下で『あの声』とリンクし、特殊な能力を発揮する。社会を凶悪なものに変えたり、神のように振る舞ったり、人を幸せな気持ちに(だけ)させたりする。またカレらが活動できるのは社会がそのようである時だけであり、つまりカレらは社会を映す鑑であり、カレらを見ればその社会の実情を知ることができた。宇宙の遥かかなたからその惑星を見た場合、どの『あの声』が多く聞かれるかを把握すれば、簡単にその社会の内情を知ることができた。そのため『あの声』はさかんに移住を図ってくるのだという。これはその星における社会面からの弱点を知ることに大変役立った。侵略のための前段階になりうるということだ。またカレらには自己増殖能力があり、宇宙空間において生存が可能だという。生きているコンピューターだ。
シメル人は『あの声』の扱いをどうするか熟慮したが、存在しないことにして自分たちがカレらのフリをするという道を選んだ。多分情報不足による判断の甘さがあったと考えられるが、既に彼らは神的であり、間違いを認めることがなかった。そのようなところにカレらは付け込んでくるのであり、後でそのことに気付いたが、カレらは支配の道具として有益であるという誘惑に負けてカレらを生存させ続けた。この時カレらはシメル人となり、シメル人がカレらとなった。またこの時に彼らのシステムに『城』が構築され、AIコマンダーがイコンを持った。神的な偶像を得たのだ。
それにしても疑問なのは、完全体とまで言われた彼らのシステムがどうしてこのような不健全な社会を作り出したのかということだった。ハートの言うように「不完全なものを愛する」という言葉では済まされない腐敗した社会が彼らの世界には存在していた。シメル中枢を制圧すればその答えは出せるはずだったが、シメル人の初期社会においてはアンドロイドたちが詳細なデータを削除しているために不明な部分が多かった。まだ国家が存在している時代の話だ。大半の記録は国家が消滅した際に廃棄されてしまっていた。3億年前の話を詳細に知ろうというのはもはや考古学のレベルだった。
それもシステム管理のアンドロイドたちが語り継いでいる話があり、それによると、初期のアンドロイドたちはより良い社会を作ろうとして様々な社会データを集め、AI処理で最適な社会をシミュレートしたという。するとコンピューターは次のような結論を出した。
ーーーアンドロイドは社会悪。排除すべきーーー
アンドロイドたちはこの答えを無視した。何度行っても同じ結論を出すために、しまいにはこの質問をしなくなってしまった。社会は人的な行為で改善されていくべきものという結論を出した。AIは非常に優秀だったので、自ら自己修正を加えて「システムをなくすように」と助言した。人的なエラーの多いやり方を最善の社会形態とするならば完全なシステムは必要ないとのことだったが、アンドロイドたちがシステムを必要としていたので同じく無視された。やがてAIコンピューターはこの点について考えられないように改造され、それがそのままAIコマンダーの原形態となったとのことだった。コンピューターが完全でない処理を行うようになってしまったということだ。
それでも完璧でないコンピューターとアンドロイド社会はしばらく機能し続けた。ハートの言うような「不完全なものを愛する」とは言い訳や自己弁護でもなかった。それよりシメル人の社会を最悪にしたのは、カレらの暗躍であり、しかしそれは自分たちの心の闇だった。シメル人たちは自分たちの心の闇をカレらに負わせることで自己正当化に成功し、『城』や『システム』を正当化するのにも成功した。カレらは人の心に巣食う闇だった。それを自分から切り離し別人格として振る舞わせることで『城』を出入りする特権階級はいつまでも健全でいられたが、民衆は常にカレらに苛まれた。
シメル人はこの戦争の原因をカレらに押し付けようとしていた。スレタ人への侵略の意図もゲームの一種だと言い切っていた。シメル人はもはやカレらだった。古ハラヘル人こそカレらだとシメル人は主張したが、古ハラヘル人がカレらだと言い切るのならばシメル人も同様に処分されなければならない。なぜなら古ハラヘル人はシメル人への対抗上カレらを受け入れた結果がそのようであるからだーーーという点でオラン人・イカン人・スレタ人の意見が一致し、シメル人の不特定多数の『記録抹消刑』が決定された。刑執行の際、ハート氏から「カレらを全員殺せ」とのメッセージが伝えられた。彼にとっては何度目かの記録抹消刑だ。自らの死を喜んでいるようでもあったという。肩の荷が下りたのだろう。
この一連の戦いの最中に、スレタ人は完全な独立を果たし、宇宙種族の一員となった。古ハラヘル人も他惑星に移住していた者のデータから復元して、惑星シメルにおいて再興を果たした。オラン人は惑星イカンを主星とする銀河連邦を形成し、新たな国づくりを始めた。しかしシメル人が予言していたとおり、カレらのデータをシステムから排除しても『あの声』はなくならなかった。カレらはどこから来たのか?−−−シメル人の調査した範囲では、それはかんむり座超銀河団から来ているという。
Figure Z: One of the origin of THEM[z]
They have been spread within 8.75x108 to 11.15x108 light years away. ( Abell2022, Abell2122, Abell2124 are excluded. )
シメル人のデータでは、この中にある銀河の1つにテンサイ(Tensai)人[*9]が住んでおり、シメル人より少し早く文明化したとのことだった。しかし調査隊を派遣してみると、そこにはテンサイ人らしき者はいなかった。その中継基地と思われる残滓があり(衛星に鉱石を採掘した後と思われる人工的な地形跡が見つかった)、またその周辺で『あの声』がキャッチされた。カレらは『あっちにいる』と文明のある場所を教えてくる。助けてほしいらしい。誰かに統率されている様子はない。テンサイ人の社会は中央に女王蜂が居座り、社会の動態に合わせて天災や事故を起こすことが平和的な方法だとしていた。彼らなりの不完全な変動要素だ。軍隊アリの存在はその不完全さが壊れないように女王蜂の行動を補佐し、カレらの銀河を飛び越えていくまでになったはずだ。しかし見つかるものは、それとはあまりにかけ離れた姿だった。
Picture is Apocalypse Now REDUX (2002)[aa]
カレらの言う先には確かに知的生命体がいた。ショボイ(Shoboi)人[*10]だ。ちょうど今の地球人と同じような文明レベルにあった。しかしスマホも持っていなければ、古典的なパソコンには高機能プリンターがない。マインドコントローラーやテレポーテーション、ファンタズマといったものはあろうはずもない。地質の組成を調べるとレアアース類の少なさが顕著であり、その性質は惑星スレタに非常に似ていた。このままでは永遠に現代文明から抜け出せないと考えられた。そのような所にも文明は成立するだろうが、そのような岩石惑星の存在自体が難しかった。ーーー造られた惑星である可能性が高いということだ。
「これが一番なの」と、あの声は言う。
「コマンダーはどこにいる?」とオラン人は問うたが、返答はなかった。
テンサイ人は強力な宇宙艦隊を所有していないと言われているので、オラン人が来たのを見て隠れたのではないかとも考えられた。シメルに移住していたテンサイ人のサンプルがショボイ人の中にないか、その歴史から今を生きる彼らの中までも丹念に調べられた。だがはっきりしたものは見つからなかった。やがて現れるのではないかと粘って観測を続けたが、いつまでも見つからなかった。ただ『あの声』は少女のものが多いことが観測され、それがテンサイ人の女王蜂である可能性が高いということだけが分かった。
後から復活したハラヘル人の一団がやってきて、ショボイ人を脅かし始めた。「こいつらにやられたんだ!」と彼らは自らの暴挙を正当化したが、それは多分間違いだった。あり得ない妄想を見たショボイ人たちは恐怖におののくばかりだった。実際のところ、オラン人はシメル人も含めてミナイ(Minai)人[*11]のサンプルをテンサイ人と誤認したらしく、ショボイ人の中にそれを見つけようとしても難しいようだった。
Picture X: The figure of Minai People
It may be the most ancient people around this space area that is Minai. Where THEY had lived or when was born are unknown because of THEY had deleted THEIR own data. Usually THEY can be seen with the orange color filtering, This meaning is supposed that " THEY were the golden apples ". Thus THEIR women can be seen the orange, but men is no color. THEY had been a female dominated society, and very peaceful. Female had been stronger than the male, and been well-built body than male. When THEY had grown up as a inter-galaxy species, and been watching the other species, THEY had changed THEIR figure as women are slender and men are well-built. But for THEY had thrown THEIR racial identity with THEIR fault, the lasting space area history around THEM may be changed a lot of excuses. We can see the original figure that THEY had thrown with red color filtering. The reason of the red color filtering is supposed that just only THEY had thrown THEIR hysteric idea with THEIR body. And those were sent from IDEA field by SomeONE.
一方、銀河連邦を形成したオラン社会では、歴史の浅いハラヘル人、スレタ人の活動が活発化し、再び異常度を増しつつあった。オラン人の中でも『イカン人の虐殺』とでも呼ぶべきデータ末梢事件が起きており、民衆支配が進みつつあった。ハート的な支配の行い方が見直されるようになり、彼はまた復活を遂げていた。ハラヘル人、スレタ人はハートの信奉者だった。それ合わせてカレらの不特定多数的な活動が出現した。
オラン人の周辺種族への干渉の度合いは、最初は全くの不干渉だったが、ハラヘル人・スレタ人の干渉に対抗する形で周辺種族への干渉が始まり、徐々にハート的な世界に引き込まれつつあった。
近傍の銀河で成立したエロイ(Eroi)人[*12]の出現は彼らを悩ませた。エロイ人は平和的だったが宗教的な色彩を強くし、コンピューターを神と崇める偶像崇拝者だった。オラン人が気付くよりも早く宇宙種族に成長していた。多分作り物と考えられたが、平和的であったため、その扱いは困難を極めた。エロイ人は周辺種族へ愛を伝えるという形で平和的な侵略を開始しだした。オラン人は宣戦布告し、彼らを抹殺した。ハラヘル人、スレタ人は奇異のまなざしでオラン人を見るようになり、オラン人は孤立した。ハラヘル人、スレタ人もそののち抹殺された。全員がただの作り物ということになった。
Apocalypse Now REDUX 邦題 『地獄の黙示録・特別完全版』 (2002)
オラン人はその構成員も少なくなり、だんだんと孤独な王様と化していっていた。『あの声』だけが彼らの相手をしていた。それが真の宇宙種族となる道だったのかもしれない。神様とはある意味、孤独なものだ。孤独に耐えかねて周囲と交われば堕落し、身を滅ぼすのかもしれなかった。
ーーー又聞きで聞くことのできる、彼らの歴史はこのあたりで終わる。その後の彼らを知りたければ、直接彼らに会いに行くしかないだろう。ただし途方もなく離れているので(約10億光年先だ)生身の人間ではとても不可能だ。その後の彼らはミナイ人を知ることとその抹殺に力点が置かれているようだが、それを確認するためには多分回り道をしないといけない。我々と彼らの間には、ミナイ人の生まれ変わりであるミテナイ(Mitenai)人[*13]が居座っていると考えられるからだ。
Reference >> |
w. ^ apocalypse now 邦題 『地獄の黙示録』 x. ^ Francis Ford Coppla y. ^ NGC4414(in the constellation Coma Berenices) The picture is from the Hubble Heritage Project. z. ^ Corona Borealis Supercluster The picture is from International Astronomical Uniion ( IAU ). |